マーラー交響曲全集(12SACD)ジョナサン・ノット&バンベルク交響楽団楽譜情報を最大限引き出し、マーラーの音楽のさまざまな面に光を当てるアプローチが高く評価されたジョナサン・ノットとバンベルク交響楽団によるシリーズが、交響曲9曲をまとめて待望のボックス化。 完成までに7年と10カ月を要したこの全集は、現代作品を得意とするジョナサン・ノットならではの楽譜を尊重した解釈と、マーラー演奏の伝統が無く、そのため先入観も無かったバンベルク交響楽団がその指揮に率直に応えて生みだされたもので、楽曲のフォルムや対位法、各パートの出入りの面白さ、さまざまな和声の響きの魅力、ソロイスティックな技巧面での楽しみや、随所で示される豊かな情感、そしてヴァイオリン両翼型の楽器配置のもたらす明晰な響きにより楽譜情報を細大漏らさず表現、マーラーを聴く喜びを満喫させる見事な演奏に仕上がっています。 録音も凝っており、オリジナル・マルチチャンネル・レコーディングも実施しているため、SACDサラウンド再生した場合も疑似サラウンドと違って響きはクリア。また、ハイブリッド・タイプのSACDなので、通常のCDプレイヤーでは通常のステレオ音声が再生できますし、SACDプレーヤーでは、2ch音声と5.1ch音声の2種類から選択可能。計3種類の音声を収めたコストのかかった仕様です。 演奏は全9曲とも高水準なものですが、特に第9番は優れています。ヴァイオリン両翼型の楽器配置により各パートを明晰に響かせ、作品の情報を細大漏らさず表現しようという方針はいつもながらですが、作品の性格が、後期ロマン派の終焉であり近現代音楽への入り口でもあるという複雑な内容を持ったものであることを反映してか、ノットも唸り声まであげるほどの白熱ぶりで、じっくり細部まで描き抜くために不可欠なテンポ設定と相まって、大変聴きごたえのある演奏が展開されています。 第1楽章は実測29分38秒。冒頭、ゆったりしたテンポと透明で精妙な響きの中から萌芽する主題の美しい佇まいは、ジュリーニの名盤を想起させるほど。しかも対向配置&優秀録音のもたらす非常に立体的な各素材の交錯は、呈示部からかつてないほどの情報量を引き出していて面白いことこの上なし。展開部も同様ですが、こちらはより近現代音楽への接近をうかがわせる要素が強い分、こうした情報量重視のアプローチが功を奏しており、ふだん経過句的に聴こえてしまう部分も、ここでは意味深い存在感を主張するかのようです。クライマックス(17:53- )も十分な迫力で描かれ、劇的な起伏も申し分ありません。 第2楽章は実測15分31秒。快活な演奏で、レントラー的な要素よりも、この交響曲のほかの部分と共有される素材とその変容に注目させられる立体感の強さが印象的。 第3楽章は実測12分39秒。錯綜とした音楽をいっそう複雑に響かせるかのような超絶バランス構築が素晴らしく、あまりの目まぐるしさに聴いていて軽い疲労するら覚えるほどですが、エピソード・ブロックでの思い切った表情変化の妙もあり、聴き応えは最高です。ちなみにジョナサン・ノットはこのスケルツォがベルクの『ヴォツェック』の居酒屋の場面に大きな影響を与えたと述べています。 第4楽章は実測25分11秒。過激な第3楽章コーダのあとだと、実に美しいです。ジョナサン・ノットが鍛え上げたバンベルク交響楽団のメンバーは、終始一貫して共感に満ちた演奏を精度高くおこなっていますが、そのことはこの楽章のコーダ、編成の薄い室内楽的な部分でもよくわかります。【ジョナサン・ノット・プロフィール】ジョナサン・ノットは1962年のクリスマスに、ウースター大聖堂の司祭の息子として誕生。ケンブリッジ大学で音楽を収め、マンチェスターの王立音楽ノーザン・カレッジでフルートと歌を、ロンドンで指揮を学んでいます。 1989年フランクフルト歌劇場、1991年ヴィースバーデン州立歌劇場とカペルマイスターを務め、1997年にはルツェルン交響楽団首席指揮者に就任、ほどなくアンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督にもなりますが、2000年1月にバンベルク交響楽団の音楽監督になると、アンサンブル・アンテルコンタンポランの方は、首席客演指揮者に変更し、バンベルク交響楽団での活動に注力することとなります。 ノットは最初、ドイツの伝統的な指揮者の典型ともいえるカペルマイスター的なキャリアを積み、一方で、現代音楽も得意だった彼は、アンサンブル・アンテルコンタンポランで多くの新作初演を手がけ、あるテーマのもと、クラシックと現代音楽をカップリングしたコンサートを制作するなど、そのユニークな姿勢が幅広い聴衆から支持されていました。 レコーデPowered by HMV